パネルセッション 2-1: 海の探査から開発まで ―海中ロボットと資源開発

脱炭素社会に必要な鉱物資源を海洋に求めて

地上と同じように海の底にも多くの資源が眠っていることはよく知られていますが、その必要性はますます高まり、資源の探査や採掘する方法も新しい変化が求められています。パネルセッション 2-1で取り上げられる、世界や日本を取り巻く海の鉱物資源開発はどのような状況にあり、どのような技術が関わっているのでしょうか。コーディネーターを担当するJOGMEC/神戸大学海洋底探査センターの岡本信行先生に話を伺いました。

─海の資源はどれだけ必要とされているのでしょうか?岡本海の鉱物資源を開発しようという動きは1970年代に最初のブームがあり、2010年から再び世界で注目され、今は“海底鉱物資源の第二次ブーム”ともいえる状況にあります。背景には中国等の経済発展による金属需要の高まりにより、地上での資源採掘ではまかなうことが出来なくなるとの予測もあり、その不足する資源を海に求めようと、特に海外での開発に対する気運が高まっています。特に、海洋鉱物資源には、将来の脱炭素社会に必要な電気自動車や風力発電システム等の再生可能エネルギーに用いられる部材に不可欠なニッケル、コバルト、銅といった金属が含まれています。

─どのような資源が採掘できるのでしょうか?岡本種類はいろいろありますが、現在、世界で注目されているのは鉄やマンガンに加え、銅やニッケル、コバルトが含まれるマンガン団塊の採掘で、ハワイ沖やインド洋の海底4000〜6000mの深さで大掛かりな採掘実験が行われたり、近い将来に行われようとしています。今年5月にベルギーの浚渫企業として世界的に著名なDEMEグループのGSR社が実際の海域で実験を行いました。今回のパネルセッションではGSR社から、実験の内容について最新の話題を紹介してもらうことになっています。

─日本の海にも海底資源はあるのでしょうか?岡本日本は世界第6位の排他的経済水域を有し、海底熱水鉱床やコバルトリッチクラストと呼ばれる海底鉱物資源の分布が知られています。海底熱水鉱床は、沖縄トラフや伊豆・小笠原海域に、マグマなどで熱せられた海水が冷却した際に沈殿してできる銅、鉛、亜鉛、金、銀が含まれる金属資源が眠っています。また、南鳥島周辺の海山上には、コバルトリッチクラストが眠っています。水深も1500〜1600mとハワイ沖やインド洋に比べるとかなり浅く、陸地にも近いので資源開発では有利な状況にあるとも言えます。

─探査や採掘ではどのような技術が必要なのでしょうか?岡本資源開発にはまずどの程度の量と質の資源が眠っているか評価しなければなりません。海底鉱物資源の探査の歴史は40年以上と古く、昔はロープにバケットを付けたサンプラーで海底の試料を採取していましたが、最近では高感度なセンサーを使って無人探査機により海底の状況を把握したり、船上でモニターに映る海底を目視しながらサンプルを採取する等、飛躍的に技術が進歩しています。
また、資源を海底から採掘する技術にについては、海底で機械を使って採掘したり、採掘した鉱石を船上までパイプ輸送したりする技術が必要で、技術的なハードルが極めて高いです。ある意味、宇宙に行くより難しいのが海洋の特徴です。さらに今は海の環境を守りながら採掘することが前提なので、海での作業がどの程度海洋環境に影響を与え、どうすれば影響を最小限に食い止めることができるのかといった課題も重要な技術テーマです。

日本では採掘技術の開発は政府の開発計画に基づき、JOGMECが民間企業の協力を得ながら実施しており、これまでに沖縄近海での海底熱水鉱床の揚鉱試験やコバルトリッチクラストの採掘試験を成功させた三菱造船JV製の採掘ロボットは世界でも注目を集めています。また、特別企画として会場内に海底熱水鉱床やコバルトリッチクラスト採掘試験で用いた試験機を日本で初めて一般公開しますので、どのような器材が使われているのか実際に見ていただけます。

他にも最新技術では、資源の効率的な採掘を目指して音を使って探査する音響カメラの話も取り上げます。こうした新しい開発技術や器材の開発は、宇宙ロケットと同じく個々のパーツは町工場で作られることもあるので、これから新規参入できるビジネスチャンスとして注目されています。

ー技術以外に課題となっていることはありますか?岡本海の資源の採掘は陸上鉱床に比べてノウハウが乏しく、世界では海洋エンジニアリング産業が中心に動いていました。そこへ海洋石油開発をしていた大手が脱石油の流れで参入する可能性もあり、これからますます商業化に向けた競争が激化するとみられています。

ですが海の生態系はまだわからないことも多く、宇宙よりも未知の世界だといえます。環境保全は当たり前で監視も厳しくなっているので、海洋生物調査のプロも関わりながら、海底鉱物資源開発を考えていく必要があります。

むしろこれからいろいろな人たちと一緒に海洋鉱物資源について考えていこうとしているので、パネルセッションでは登壇者だけでなく、参加者のみなさんからも意見を聞かせてもらい、どうしたら環境に配慮した開発が行えるのか考えていきたいと思います。最終日には一般向けのオープンセミナーも開催されますので、ぜひ多くの方に参加していただきたいですね。