パネルセッション 3: 持続可能性に配慮した養殖業成長産業化戦略

養殖業を取り巻く課題の共有から解決に向けたエコシステムを目指す

世界全体では魚の消費量が増えており、水産業は成長産業として注目を集めています。そうした動きに対して日本の水産業も変化しており、生産量を増やす方法として養殖業に力を入れようとしています。持続可能性をキーワードに日本の養殖業を盛り上げるには何が必要なのか。コーディネーターを担当する東京大学の北澤大輔先生に話を伺いました。

─現在の養殖を取り巻く状況はどうなっているのでしょうか?北澤日本の養殖業はこの数年で大きく変化しようとしています。日本の水産業生産量のうち約2割が養殖業によるもので、養殖生産量はほぼ横ばいとなっていますが、今後増やそうとしています。そもそも養殖は日本が発祥で、海に魚を囲える場所として湾を仕切って作ったのがはじまりです。1950年代に網の中で魚を育てる生けす養殖が世界へ広がり、例えばノルウェーは沿岸に巨大な生けすを作って生で食べられるサーモンを大規模に養殖することに成功し、日本も含めた世界の魚食に貢献しています。

─産業としても成長が見込まれているのでしょうか?北澤世界では年間で一人当たり約20kgの魚が供給されていて、供給量は年々増えていることから水産業は成長産業と見込まれています。一方で日本人には一人当たり年間50kg弱の魚が供給されていますが近年は減り、数年前に肉に追い越されました。養殖生産量は数10年間横ばいが続いており、水産庁では養殖生産量を2030年までに年あたり約30トン増やそうという目標を立て、成長産業にしようと動き出しています。既存の養殖業も含めてこれからどのような新しい養殖に取り組むのか、各パネラーから話を聞かせてもらいたいと思っています。

─養殖業ではどのような課題があるのでしょうか?北澤課題はいろいろありますが一番大きいのは餌の問題です。養殖はコンブやホタテのように栄養分や餌を必要としないものと、生けすに囲って餌を与えて育てるものに大きく分類されます。生けすは売上げの半分以上が餌代で占められることが多いのが課題ですが、質が良くなった上に消費者のニーズにあわせて味をコントロールできるようになっています。一方、主な原料である生の小魚をどう確保していくのか、漁業への影響も含めた課題となっており、植物タンパク質や昆虫等の別の資源の利用も考えなければなりません。その現状をマルハニチロの濱崎様から伺います。人工ふ化した仔魚を親魚まで育てた後、その親魚から採卵、ふ化させて育てる完全養殖も必要で、近大マグロのように研究開発が進められてきています。ブリの種苗生産等を行っている日本水産の鶴岡様から現状を伺います。

どこで養殖するかも課題です。マリノフォーラム21の日向野様からは沿岸養殖の環境問題や対処法について紹介していただきますが、海が穏やかで環境にも影響が少ない場所は世界でも減っています。また、沿岸から離れた沖合に目を向けている日鉄エンジニアリングの取り組みについて狩谷様から、陸上に活路を見出そうとしているIMTエンジニアリングの取り組みについて野原様から紹介していただきます。

他にも養殖魚を育てる環境への配慮や、病気の対策、魚が逃げないようにしたり、害獣や窃盗から守ったり、網を掃除するなど考えるべき課題はたくさんあります。様々な技術が組み合わされている養殖業では、それぞれの立ち位置で課題としていることも異なるので、それがどういったものか話を聞いて共有できるエコシステムを構築することが、イノベーションを生みだすきっかけになるかもしれません。

─これからどのような人たちの協力が必要でしょうか?北澤そこはみなさんと一緒に議論したいポイントです。日本の環境を活かしながら持続可能性に向けた未来の養殖業を目指すには何が必要で、どのような協力が得られるのか。どのような技術が鍵になるのか、これから考えなければいけないことがたくさんあるので、業界以外からも多くの意見を聞かせてもらいたいですね。